産業経済影響

国内回帰の潮流を阻んでいるもの——せっかくの追い風を電気代が消している

円安による製造業の国内回帰(リショアリング)の追い風が吹く日本で、高すぎる電気料金が最後の障害となり国内投資を躊躇させている見えない障壁について解説します。

著者: Akuma Shogun公開日: 更新日: 約5分
国内回帰の潮流を阻んでいるもの——せっかくの追い風を電気代が消しているの論点を示す独自図解

この記事で分かること

  • 円安や地政学的リスクの高まりを背景に、多くの製造業が生産拠点を日本国内に戻す『国内回帰(リショアリング)』の動きを見せています。
  • しかし、日本特有の極めて高い産業用電気代が最後の障壁となっており、データセンターや最先端工場などの次世代産業の国内定着を阻む要因となっています。
  • せっかくの産業再興の追い風を活かすためには、安定的かつ安価なベースロード電源の確保が不可欠であり、エネルギー政策と産業政策の完全な一致が必要です。

空洞化の歴史

日本の製造業が海外に生産拠点を移す動きは、決して最近始まったことではない。海外生産比率は1985年度の3.0%から、1990年度には6.4%、2009年度には17.8%まで一貫して上昇してきた。特に自動車や電気機器といった主要輸出産業でその傾向が顕著である。

この空洞化を後押ししてきた要因の一つが、繰り返された円高局面である。意図的な円安誘導による輸出競争力の獲得どころか、結果的に長期化した円高が国内製造業の採算を悪化させ、生産拠点の海外移転を加速させてきた。他国を出し抜くどころか、自らの産業基盤を弱らせてきたという意味で、これもまた「自国窮乏化」の一形態だったと言える。

ところが今、潮目が変わりつつある

しかし近年、状況に変化の兆しが見られる。円安傾向の定着、海外における人件費の急激な上昇、そしてコロナ禍で顕在化したサプライチェーンの脆弱性への反省から、生産拠点を日本に戻す「国内回帰」の動きが増えている。

具体的な数字を見ると、ある調査期間において中国・香港に新たに進出した企業が65社だったのに対し、中国・香港から日本に生産拠点を回帰させた企業は100社にのぼり、回帰が新規進出を上回っている。背景にある人件費の変化も大きい。2013年から2023年までの10年間で、中国の現地従業員の平均月給は約1.5倍、カンボジアでは約2.5倍に上昇しており、「海外の方が人件費が安い」という前提自体が過去のものになりつつある産業も出てきている。

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それでも戻れない産業がある

ところが、この国内回帰の恩恵を十分に受けられない産業がある。電力を大量に消費する電炉・鉄鋼・化学・非鉄金属といった産業である。円安や人件費上昇という追い風が吹いているにもかかわらず、電気料金の高さという一点だけが、これらの産業の国内回帰を妨げている。

これは非常に皮肉な状況だと言える。せっかく他の条件が日本に有利な方向へ動き始めているのに、電力政策という国内で完全にコントロール可能なはずの要因だけが、その流れをせき止めているからだ。為替や海外の人件費は日本政府の政策だけでは動かせないが、電気料金の水準は国内のエネルギー政策の選択によって左右できる部分が大きい。

「戻ってこられる」水準まで下げる必要性

一度海外に出た工場を呼び戻すためには、単に「これ以上電気代を上げない」という現状維持では不十分である。すでに海外に移転してしまった生産拠点が、あえて日本に戻ってくるだけの明確なコスト優位性を示す必要がある。つまり、以前よりもさらに電力コストを引き下げる、逆転の発想が求められている。

円安と人件費上昇という好条件が重なっている今の時期こそ、電力コストというもう一つの要因を是正できれば、製造業の国内回帰は一気に加速する可能性がある。逆に言えば、この好機を電力政策の失策で逃せば、再び海外に活路を求める企業が増えることにもなりかねない。

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分析方法

  • 経済産業省、資源エネルギー庁の公式発表資料、および国会の環境委員会における公式審議ログ、議事録データベースからデータを抽出・比較検証しました。
  • 本文中の試算データや地政学シナリオは、公的データに基づく中長期の政策シミュレーション分析であり、将来の経済動向を確定的に予測するものではありません。

分析の限界

  • 本稿は、特定の政治的立場を支持または否定する意図で執筆されたものではなく、公開された一次資料に基づく政策分析です。
  • 系統統合コストや電気料金の将来推移は、技術革新やエネルギー情勢によって変動する可能性があり、試算値には前提条件による幅が存在します。

参考文献・一次資料

本記事は以下の公的機関・国際機関の公開資料を参照し、独自に整理した分析記事です。

著者・編集方針

Akuma Shogun(独立系経済アナリスト・データビジュアライザー)が、公的統計と公開資料をもとに作成しています。 推測を含む将来シナリオは本文中で明示し、最新情報は各出典元を確認する方針です。

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