電力データ検証
送配電網の系統増強費用と託送料金——OCCTO広域連系系統マスタープラン公表値の検証
電力広域的運営推進機関(OCCTO)が試算した全国送電網増強の概算費用(約6〜7.9兆円)の内訳と、それが将来の託送料金・電気料金に及ぼす影響シナリオを公式資料から整理・検証します。

この記事で分かること
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)の「広域連系系統マスタープラン」では、2050年に向けた全国送電網増強の総投資額を約6兆〜7.9兆円と試算しています。
- 投資計画の内訳には、北海道〜東京間の日本海側海底直流送電(HVDC:最大800万kW、約2.5〜3.4兆円)や東北〜東京、九州〜本州間の連系線増強が含まれます。
- これらの設備投資は30〜40年の法定耐用年数にわたり減価償却費として託送料金に算入され、全国販売電力量で按分した場合の料金影響は概ね0.3〜0.5円/kWh程度と試算されています。
マスタープラン策定の背景と地理的課題
日本における再生可能エネルギーの有力な適地(洋上風力や陸上風力のポテンシャルが大きい北海道・東北地方、太陽光導入が進む九州地方)は、大電力消費地である首都圏や関西圏から地理的に遠く離れています。
このため、既存の地域間連系線の容量が上限に達し、地方で発電されたクリーンな電力を大消費地へ送電できずに発電を停止させる「出力制御」が課題となっていました。このボトルネックを解消し、全国規模での電力融通を実現するため、電力広域的運営推進機関(OCCTO)は2023年3月に『広域連系系統のマスタープラン及び系統長期方針』を策定・公表しました。
OCCTO公表の投資額・増強容量・完工目標データ(pp.15-28)
OCCTOマスタープラン(2023年3月公表資料 pp.15-28)に明記された主要プロジェクトの計画値は以下の通りです。
① 北海道・東京間連系設備(日本海側ルート):
・増強容量:最大800万kW(8GW)の高圧直流送電(HVDC)。
・概算投資額:約2.5兆〜3.4兆円。完工目標時期:2030年代前半〜中盤に一部稼働、2040年頃の全面展開を目指す。
② 東北・東京間連系線増強:
・増強容量:約460万〜920万kW(約4.6〜9.2GW)。
・概算投資額:約0.8兆〜1.6兆円。完工目標時期:2030年代前半。
③ 九州・中国間および中国・関西間連系線増強:
・増強容量:約280万〜560万kW(約2.8〜5.6GW)。
・概算投資額:約0.4兆〜0.8兆円。完工目標時期:2030年代前半。
④ 地域内基幹系統対策(地中化・変電所増強等):
・概算投資額:全国合計で約2.1兆〜2.3兆円。
これらを合算した全国の総投資規模は、概ね6兆円から7.9兆円と試算されています。
託送料金への費用回収メカニズムと電気料金影響の試算
送配電設備の投資費用は、単年度で利用者に全額請求されるわけではありません。送電設備は固定資産として計上され、税法上の耐用年数(30〜40年程度)にわたって減価償却費として毎年費用化されます。
OCCTOおよび経済産業省の試算モデルに基づき、総額約7兆円の投資を40年間で回収する場合の年間負担を試算すると以下のようになります。
・年間の減価償却費+維持管理費・利託金:年間約2,500億〜3,500億円規模。
・全国の年間総販売電力量(約8,500億kWh)で均等按分した場合の単価影響:約0.30円〜0.50円/kWh程度の上昇影響となります。
・標準家庭(月400kWh使用)に換算すると月額約120円〜200円(年額約1,440円〜2,400円)の託送料金押し上げ要因となります。
多角的な論点:長距離送電網投資 vs 需要地近接型電源
大規模な送電網投資の是非については、専門家の間でも複数の視点が存在します。
送電網増強を支持する立場からは、『全国の系統を強靭につなぐことで、気候変動に伴う災害や寒波・猛暑時の電力逼迫に対して相互融通が可能となり、国全体のエネルギー安全保障と需給レジリエンスが大幅に向上する』と評価されます。
一方、分散型電源や核融合等のオンサイト電源を重視する立場からは、『長距離送電には送電距離に応じた電力損失(送電ロス)が不可避であるほか、数兆円規模の固定資産維持費が長期にわたり国民負担となるため、消費地の近郊に安定した大容量ベースロード電源(核融合プラント等)を配置する方がトータルシステムコストを低減できるのではないか』という比較検討が行われています。
分析方法
- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)『広域連系系統のマスタープラン及び系統長期方針(2023年3月策定、pp.15-28)』の表データを抽出・照合しました。
- 料金影響試算は、減価償却期間40年、定額法、および全国販売電力量(8,500億kWh/年)を基準に算出しています。
分析の限界
- 海底ケーブル敷設費用や原材料費(銅・鋼材)の高騰、為替レートの変動により、実際の総工費は増減する可能性があります。
- AIデータセンターやEV普及に伴い全国の総電力需要が増加した場合、1kWhあたりの按分単価は試算値より抑制される可能性があります。
参考文献・一次資料
本記事は以下の公的機関・国際機関の公開資料を参照し、独自に整理した分析記事です。
著者・編集方針
Akuma Shogun(独立系経済アナリスト・データビジュアライザー)が、公的統計と公開資料をもとに作成しています。 推測を含む将来シナリオは本文中で明示し、最新情報は各出典元を確認する方針です。
運営者情報と編集方針を見る関連する長文記事
エネルギー安全保障
核融合は日本のエネルギー主権を回復できるのか
化石燃料の海外輸入依存度87%・年間約20兆円の国富流出という日本のエネルギー安全保障上の急所を検証。海水由来の燃料自給が可能な核融合発電の導入によって、中東シーレーン依存から脱却しエネルギー主権を確立するための技術ロードマップと政策課題を多角的に整理します。
政策ロードマップ
日本が核融合で遅れないために必要な政策ロードマップ
ITER計画の進展や原型炉(DEMO)開発、官民連携によるスタートアップ支援、耐熱材料技術、専門人材育成を結集し、日本が世界的な核融合産業で主導権を確保するための条件を整理。2030年代の実証発電と2040年代の商用化に向けた国家戦略の道筋を分析します。